2023年4月8日(土)青葉画荘美術部「水彩紙使い比べ体験会~水彩紙ベストパートナーを探そう~」を開講しました。 どうして水彩絵の具には、水彩紙を使うのか? 水彩紙とはそもそも、どのような紙なのか。 参加された皆さんには、「水彩紙という画材」について勉強しながら、実際に使い比べて、違いを見てもらいました。
今回はその講座内容をご紹介します。
【目次】 1.どうして水彩絵具で描く時は、水彩紙を使うと良いのか 2. 水彩紙という画材について 3. 水彩紙の性格いろいろ(青葉画荘編) 4. 水彩紙の性格構成(青葉画荘編) 5. まとめ
6. 青葉画荘美術部とは
【1. どうして水彩絵具で描く時は、水彩紙を使うと良いのでしょうか?】
水彩絵具は、ケント紙、画用紙、色紙、厚紙、コピー用紙、包装紙…などいろいろな紙に描くことができます。
その中でも水彩紙は、絵の具の発色を高めたり、水のコントロールをしたり、多様な水彩表現に応えることができるよう加工、製造されている紙です。お水を多く使い、紙の影響を受けやすい透明水彩絵具にとって、水彩紙はとても大切なパートナーになります。
♦ケント紙、色画用紙、画用紙、水彩紙、実際に塗り比べて、透明水彩絵具と紙の相性を見てみましょう 水で紙を湿らせる程度に濡らして、二色グラデーションをしてみます。 乾いたら、水を含ませた筆でゴシゴシと色を取る「洗い出し」をしてみます。
♦ケント紙(KMKケント)
ケント紙は、ペンやマーカーなどで描くのに適した用紙です。表面がツルっとしている目がつまった紙で、水彩絵具をあまり吸い込みません。その為、洗い出しは綺麗にできますが、グラデーションやにじみはしづらくなります。
♦画用紙(マルマン図案)
紙の表面に凹凸があり、ケント紙に比べると水彩絵具を吸い込みます。水彩紙ほど絵具を受け止めるキャパシティはないですが、軽く着彩するときや不透明水彩絵具で描く時には良いでしょう。
♦色画用紙
水彩絵具で絵を描くことはできますが、切ったり貼ったりと工作用で、水彩絵具で絵を描く目的として作られた紙ではない為、にじみやぼかしはしづらく、洗い出しもあまりできません。
♦水彩紙(アルシュ)
最初に水で湿らせる段階で、他の用紙とは異なり、水彩紙はぐんぐん水を含みます。 グラデーションやにじみも美しく出ます。 水彩絵具を受け止めるキャパシティの大きさを感じます。
【水溶性の他の絵具の用紙について】
ポスターカラーなど不透明水彩絵具にはTMKポスター紙、アクリル絵具用にはアクリルデネブ水彩紙などの商品が、専用水彩紙として出ています。 不透明水彩絵具、アクリル絵具も、水分量を多く使う場合は水彩紙の方が扱いやすくなります。 不透明水彩絵具の描き方についてはこちらをご覧ください。
【2. 水彩紙という画材について】
青葉画荘にあるスケッチブックの棚の3/5程度は水彩紙です。こんなにもたくさんのラインナップがあるのはどうしてでしょうか?
実は、すべてが少しずつ性格が異なり、描き方や好みによって選べるようになっています。
こんなにたくさんあっては、選ぶことも難しいですよね。 それぞれの性格を把握する前に、まずは、水彩紙スケッチブックの基礎データの見方からみてみましょう。
a. 紙色の違い
水彩紙は、真っ白なもの、オフホワイト、クリーム色のものなどがあります。
下の色の影響を受ける透明水彩絵具にとって、土台となる紙の色は重要です。
例えば同じ「ウォーターフォード水彩紙」にも、ホワイトとナチュラル(若干クリーム寄り)があります。
ホワイトの方は、色がクール寄りな印象になり、メリハリのある画面になります。
ナチュラルの方は、色がウォーム寄りな印象になり、描き上げた時の全体の印象が決まります。
コピー用紙や安い画用紙は、蛍光染料を使って青白くしているものもありますが、絵画用の水彩紙は保存性などの観点から蛍光染料を使わずに白色度を追求しているものがあります。
アシッドフリー、中性紙、などの表記があるものは保存性に優れた水彩紙です。
b. 紙肌の違い
水彩紙は、表面がザラザラしているもの、ツルツルしているものなど凹凸があります。また、同じ水彩紙であっても表面の凹凸が異なるバリエーションででているものがあります。
この凹凸の違いによって、絵具の流れ方、表情の違いがでてきます。
・荒目…凹凸の強いもの。より偶発的な表現や、にじみぼかしを多用するという場合に使いやすく、凹凸のポケットに色が貯まる為、発色良く見えます。
・中目…適度な凹凸。
・細目…凹凸の少ないもの。植物図鑑絵のような緻密さを求める作品や、ペン画との併用に向いています。水分が多いと色ムラがでやすい。
最初に使う場合は、適度な凹凸の中目が良いと思います。
水彩紙によっては、さらに、極荒目、極細目表記のものもあります。 紙肌目に共通した基準値はなく、メーカーによって程度やラインナップが異なります。
海外ブランドは、cold pressed、Hotpressed、Roughなどの表記になっているものがあります。 Hot pressed…細目 Cold pressed…中目 Rough…荒目 の表記です。 Hot pressed=熱いアイロンをかけてシワを伸ばすイメージで、凹凸が少ないのだなと思っていただければ分かりやすいかと思います。
ただし、アルシュ水彩紙においては、 Hot pressed…極細目 Cold pressed…細目 Rough…荒目 の表記です。 アルシュ水彩紙の緑色の表紙のCold pressedは細目表記ですが、他水彩紙の中目相当くらいに適度な凹凸があります。
c. 水彩紙の厚み
水彩紙の厚みはg表記で描いてあります。
300g/㎡、239g/㎡、190g/㎡ …などで、数字の大きい方が厚みのある水彩紙になります。
水彩紙の厚みを表す「〇〇g/㎡」は、その水彩紙を1m×1mでカットして量った時の重さ(坪量表記)のことです。
水を多く使うのであれば、300gの厚みのあるものがオススメ。 厚みが薄くなれば価格も安くなる為、手早く枚数を多く描くスケッチなどであれば、190g/㎡などでも十分です。 その他、紙の厚さを表す「kg」や「g」について詳しくは、こちらをご覧ください。
d. 水彩紙の原材料の違い 水彩紙の原材料は、「木材パルプ」か「コットンパルプ」からできています。
コットンパルプの方が強度が高く、保水力が高いです。
コットン100%の表記のあるもの以外は、だいたいが木材パルプで比較的安価です。
中には木材パルプを主にしながら「コットン高配合」というものもあります。(ホワイトワトソン、ホワイトアイビスなど) 「パルプ」としか言っていない場合は、ほとんどは「木材パルプ」のことでしょう。
e. スケッチブックの形
水彩紙のスケッチブックは、いろいろな形があります。 用途や便利性に応じて選びましょう。
・ブロックタイプ…水張りいらずで、たわみにくい。描いてから剥がす。
・リング(スプリング)タイプ…めくるのが楽々。スケッチなどにも。
・本綴じタイプ…切り離しがしやすく、めくるのが楽々
・パッドタイプ…天糊タイプ。切り離しがしやすい。
f. スケッチブックのサイズ
水彩紙のスケッチブックは、絵画サイズである、Fサイズが一般的です。
日本のメーカーブランドによっては、A4、B5などのコピー用紙サイズのパッドタイプを出ているものもあります。
中には、B5大(B5サイズとしてマット額装したときやトンボを設定して印刷に出すに良いサイズ)などもあるので、要確認
・ミューズ ワトソン…B5規格
・ホルベイン アルビレオ…B5規格
・WN コットマン水彩紙…B5大
・マルマン ヴィフアール…B5大 など
サイズについてはこちらをご覧ください。
g.水彩紙のサイジングの違い 「サイジング」の強さや加工方法は、水彩紙の見た目やスケッチブックのデザインからは判別できませんが、水彩紙の水彩紙たる所以であり、一番描き手に影響のある部分です。 水彩紙は製紙の段階で、紙の表面の弾き具合や吸い込み、水の動きをコントロールしたり、強度を持たせたりする「サイジグ加工」が施されています。
それによって、水彩技法の様々な表現が可能になります。
サイジング液と一緒に原材料を混ぜているタイプと、表面に塗布しているタイプ、両方しているタイプとがあります。 (この水彩紙が、どのサイジング加工の仕方をしたもののか、ということまでは覚えなくても良いかと思います) アルシュ水彩紙が手元にある方は、匂いをかいでみていただきたいのですが、他の水彩紙とくらべて独特な匂いがするのではないでしょうか。これがまさに、アルシュ独特のサイジングによるものです。
h.水彩紙の裏表について 画用紙は、ぼこぼこしている方が表でツルツルしている方が裏ですが、水彩紙は裏表があるようでないと言えると思います。
サイジングの塗布の仕方によって、裏、表で少し水彩紙の性格に違いがあったりはしますが、基本的にどちらも描画性があるので、紙肌の凹凸の強さなども含めて、書き手の好みで選んで良いと考えます。
強いて言えば、
・水彩紙スケッチブックの表紙をめくって目に入る面が表、
・水彩紙シートのウォーターマークがしっかり読める方が表
になります。
水彩紙ロールの場合は、メーカーによって内巻きが表、外巻きが表のものがあります。(海外ブランド品はロットによっては逆になることもあります)
好みでどちらに描いても良い、が大前提ですが、気になる場合はその都度青葉画荘スタッフにご確認ください。
【3. 水彩紙の性格いろいろ(青葉画荘編)】
水彩紙の区分、ジャンル分けは、作家さんの描き方や、メーカーの考え方、各画材店舗の判断によっても異なるものだと思います。 今回の美術部では、青葉画荘スタッフが「水彩紙選びで迷っている」という方にご説明する場合の内容を元に区分しました。青葉画荘の場合、として見ていただければと思います。
「パキパキ、計画的にスピーディーに塗り重ねていきたい派?」それとも「ゆっくり、じんわり色を動かしながら描きたい派?」
【乾いた後のぼかし】上:水で濡らした紙の上に、青を塗りました。10分後、フチを水を含ませた筆でなぞり、ぼかしができるかを確認 【色固定の速さ】下:平塗りした青の上から交差するように、黄色を重ねました。左から「青が乾く前に」「10分後」「30分後」の順番で重ね、色が固定されるかどうかを確認
【洗い出しの可不可】右下:30分後に水を含ませた筆で青色を洗い出しをして、色がとれるかを確認。(ステイニング色:染付力の強い色)
1.「パキパキ、計画的にスピーディーに塗り重ねていきたい派」
「パキパキ、計画的にスピーディーに塗り重ねていきたい派」とは、「自分が思うところに、思う色が着色されて欲しい」方向けの水彩紙です。 塗った色が素早く乾き、次に重ねる色が溶けだしにくく、上にレイヤーの層のように重なります。 その反面、手早い描き方も求められる為、あとから「ぼかしたかった」「にじませたかった」「この色じゃなかった」という場合にやり直しがききにくいという面もあります。
(例)
ホルベイン ホワイトアイビス
【乾いた後のぼかし】:乾くとぼかせない。 【色固定の速さ】:早い。
【洗い出しの可不可】:乾くと洗い出ししにくい。
余計な余白を持たないほど、キッチリカッチリ色を置いていくのが得意な水彩紙。デジタルレイヤーを重ねるような精密さがある。
とにかく乾いたあとの色固定が早い為、作業スピードは速め。
ホワイトアイビス水彩紙についての詳しいレビューは、青葉画荘研究部をご覧ください。
ホルベイン ウォーターフォード
【乾いた後のぼかし】:乾くとぼかしはしにくい。 【色固定の速さ】:早い。
【洗い出しの可不可】:乾くと洗い出ししにくい。
ホワイトアイビスよりはゆっくり乾くが、早めに色が固定される為、乾いてしまうと洗い出しによるやり直しやぼかしは、しづらくなる。 初心者が使っても分かりやすくキレイに技法に応えてくれる優秀な水彩紙。にじみぼかしもしたい場合は、計画的な塗り方や作業スピードが必要。
マスキング液を使って白抜きした上から色を重ねたいなどの技法をする場合は、「パキパキ、計画的にスピーディーに塗り重ねていきたい派」の水彩紙が向いています。
他は、ファブリアーノエキストラホワイト水彩紙などもこちらの分類かなと思います。
2.「ゆっくり、じんわり色を動かしながら描きたい派」
「ゆっくり、じんわり色を動かしながら描きたい派」とは、「水彩紙と水彩絵具の相性による偶然性の表情を楽しみながら、色をふんわりと置いていくような描き方をしたい」方向けの水彩紙です。
こちらの区分の水彩紙は、ここから更に性格が細分化されますが、今回はざっくりと一括りで説明いたします。 ホルベイン アヴァロン
【乾いた後のぼかし】:ぼかせる 【色固定の速さ】:遅い。
【洗い出しの可不可】:乾いてからも洗い出ししやすい
乾き・吸い込みが抜群に遅いので、ずっと色を動かすことができる。サイジングが強い為、色が沈まずに表面で発色されるため、発色が抜群に良い。
色を綺麗に見せたい場合にオススメ。
ミューズ ランプライト
【乾いた後のぼかし】:ぼかせる 【色固定の速さ】:遅い。
【洗い出しの可不可】:数日経ってからでも洗い出しが可能。
暖かみのある紙色。日数が経ってからでも色が取れる為、やり直しがきく。
はじきが強い為、水分が多すぎると吸い込まずに意図せずにじみのようになってしまうので、水分コントロールが大切だと思う。
アルジョマリー社 アルシュ
【乾いた後のぼかし】:保水時間が長いのでぼかしやすい。
【色固定の速さ】:やや遅め。
【洗い出しの可不可】:吸い込みが良いので、徐々に取れにくくはなっていく。
水彩紙の王様。絵の具をキャッチするキャパが大きいので重厚感のある画面作りができます。 ウォーターフォードなどに比べると色固定は遅めですが、ランプライトやアヴァロンなどに比べると、早め。
とにかく絵の具をよく吸い込みます。
オリオン セザンヌ
【乾いた後のぼかし】:保水時間が長いのでぼかしやすい。
【色固定の速さ】:やや遅め。
【洗い出しの可不可】:時間が経つと色が抜けにくくなる
適度な保水力で、乾けば色が固定。じんわりまっすぐ深く吸い込むので、初心者が塗ってもキレイにグラデーションやにじみが出る。顔料濃度の高い水彩絵具との相性が良い。 ウォーターフォードよりももう少し作業がゆっくりできるような感じで、アルシュよりも素直な印象。 今回の美術部ではスタッフオススメのスケッチブックとして、セザンヌ水彩紙スケッチブックをお土産に用意しました。
「ゆっくり、じんわり色を動かしながら描きたい派」も、 「アヴァロン、ランプライト」派と「アルシュ、セザンヌ」派で更に細分化されるかと思いますが、今回はざっくりと分類しました。
色を塗りながら考える、考えながら塗ったり、やり直したりする、という場合は、
許容範囲の広い「ゆっくり、じんわり色を動かしながら描きたい派」の中から、自分のスピードや描き方と合う水彩紙を選ぶとストレスが無いのではないかなと思います。
【4. 水彩紙の性格構成(青葉画荘編)】
青葉画荘スタッフが、水彩紙の性格を見る時に、チェックしている部分としては主に下記のとおりです。 この他にも細分化する情報がありますが、大枠としては5つくらいでしょうか。 a.水はじきの強さ →水はじきが強いとどうなるか ・顔料が表面に残るので、色の発色が強くでる ・色が表面上で動くので、にじみ、ぼかしがしやすい ・吸い込みが遅い場合は、絵の具がたまってムラが出やすい b.乾くスピードの速さ →乾くのが遅いとどうなるのか ・ゆっくり色を動かすことができる
・作業スピードが遅くなり、上に乗せた色を引っ張ってしまうこともある c.色の吸い込みの程度(色を固定するか) ・色が沈み込むように紙の中に吸い込むか、表面で留まるか
・吸い込みが良く、色を固定するタイプであれば、下の色をひっぱらずに上に色を重ねていけるので、色の層がつくれる
・その半面、色を除去することができない為、やり直しがきかない
d.マスキング耐性があるかどうか →ゴム水溶液で塗っても耐えうる表面強度があるか、綺麗に剥がせるかの点
・マスキングを剥がした時に、紙がボロボロにならないか
・マスキングを剥がした時に、色まで取れないか
e.紙色は何色か →暖かみのある紙面になるか、キリっとした紙面になるか ・ホワイト色 ・オフホワイト色 ・クリーム色
【5. まとめ】
いかがでしたでしょうか? 水彩紙を選ぶ前の、基礎情報や、一冊目の選び方として参考になりましたら幸いです。 紹介したスケッチブックは店頭の他、弊社通販サイトでもお求めいただけます。 ※店舗と通販サイトでは価格が異なるものもございます。ご了承ください。 【掲載商品】 ・ホワイトアイビス ・ウォーターフォード ・アヴァロン ・アルシュ
【6. 青葉画荘美術部とは?】
「やってみたいけど、よくわからないし…」
「いろんな画材やジャンルを試してみたい…」
「画材を揃えるのが大変そう…」
そんな「やってみたい」の気持ちを大切に、青葉画荘スタッフと一緒に挑戦していただこうという、超初心者向け体験型教室が青葉画荘美術部です。
青葉画荘スタッフが部長となり、部員の皆さんをサポートします。
「水彩紙って何?」「油性色鉛筆って何?」 一からではなく、ゼロからスタート。
1回毎で完結する教室なので、気になった回のみ参加できます。気軽に手ぶらで参加できる講座です。
講師の先生は聞きにくい画材についての初歩の事柄も、お気軽にスタッフまでお尋ねください。 美術部室でお喋りしながら、画材に触れるような気持ちで、気軽にご参加いただければと思っています。
青葉画荘美術部について詳しくはこちら
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